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森林の将来に地域のプラットフォーム構築を【柏原市森林循環フォーラム】

柏原市森林循環フォーラム

柏原の森林保全と地域の関わりを考える「柏原市森林循環フォーラム」が10月15日、柏原市役所会議室で行われました。

森林所有者や活動に携わる当事者、関心のある60人ほどの市民や学生、オンラインで幅広い参加がありました。(ここでは、第1部の基調講演を中心にリポートします)

森林を考えるうえで「里山」という言葉があります。簡潔に述べると、集落や隣接した土地で暮らす人が関わることから生態系に影響のある(あった)山。日本の里山は国土面積の約4割で、絶滅危惧種の約5割が生息、生育しています。

古くから人びとは、木々を植えた活用としての林業、農業、ため池などの生活環境をもとに地域経済を築いてきました。

 

柏原市森林循環フォーラム
▲一般的な森林や里山の概要から柏原市の状況を説明する増田昇大阪府立大学名誉教授

 

基調講演に立った大阪府立大学名誉教授の増田昇さんによると、森林にある3つの危機からその保全と持続可能な利用への課題は、2002年の国家戦略にもなっている。

3つの危機とは、「人間の活動や開発による危機」「里地里山などでの人間の働きかけの減少による危機」「外来生物による生態系のかく乱の危機」。

なかでも第2の危機である「里地里山の危機」は、人間にとって密接で生態系や気候変動とともに保全されなければならない、と今回のテーマとしての説明がありました。

すでに「2030年ネイチャーポジティブに向けた5つの基本戦略」として基盤づくりから課題解決などの「サイクル」がまとめられ、その中の「ネイチャーポジティブ経済」(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるために投資し、経済までの好循環を考えること)や「一人ひとりの行動変容」が大切である。

「今回の準備段階で『循環』という言葉をフォーラムのタイトルに採り入れたのは、このサイクル(循環)を意味している」と増田さんは強調しました。

 

柏原市森林循環フォーラム
▲講演後には積極的な質問も

 

生物多様性や地球環境とともに、ライフスタイル・文化も関わりがある森林。その多面的な機能は、都市近郊での課題。

生駒山系では、照葉樹林(広葉樹)の低下、里山の荒廃(マツ枯れ・ナラ枯れなど)、人工林の管理放棄、竹林の自然増加、奈良方面ではシカの食害も。外来種の虫による被害、近年はクビアカツヤカミキリムシによる桜への被害も全国的に起きている。

人が関わる里山の2000年以上の歴史を考慮すると、現代の人たちは長期的な思考でこれからの植生と保全を行わなくてはならない、とありました。

 

柏原市森林循環フォーラム
▲広い会場のためモニターを複数配置した

 

市域面積の3割が「森林」であり、そのうち天然林や竹林は85%、スギなどの人工林は15%と低い柏原に焦点を充てると、以下のような特有の状況が見られると、増田さんは指摘。

・ナラ枯れ

・耕作放棄地のブドウ園の手入れがなく、ツタなどの増加

・他の植物を駆逐する、急速な竹林の広がり

・土地相続の細分化が進行し、自己所有地の境界が不明な事例の増加

・所有者にとって経済的価値をもたないという理由で関わりが低下

 

その上で、<山麓部の現状と山林の多面的な価値を再認識し、(山林所有者や地域の人びと、行政の)三者が協働で保全に取り組む>という基本理念のもと、産・官・学・民によるプラットホーム構築が重要である。「今回の柏原市森林循環フォーラムが、まさにプラットホーム構築となるように期待する」と、締めくくりました。

 

基調講演のあとは、「当事者の声を知る」として、大阪大学大学院工学研究科招聘教授の畑中直樹さんがコーディネーターを担ったパネルディスカッション。コメンテーターには大阪教育大学教育学部教授の岡崎純子さん、大阪府森林組合から堀切修平さん。

柏原市森林循環フォーラム
▲パネルディスカッションの模様。それぞれの立場で発表が行われた

 

パネラーとして、森林所有者・柏元功太郎さん、竜田古道の里山公園所長・佐藤眞史さん、かしわら森の会事務局長・桝谷政則さんから、それぞれの立場による事例と課題について発言がありました。

森林所有者の柏元さんは大県の山間部の所有地を「オガタの森」と名づけ、地域の人たちと連携した山林活動の発表、不法投棄・土地境界・維持管理などの課題を提示。

佐藤さんからは竜田古道の里山公園におけるファミリー向けの自然体験活動の発表とともに、活動の認知と理解を得るための課題がある。

森のガイド育成にも関わる桝谷さんは、自然環境を愛し、楽しむために玉手山公園いぶらの森の活動、今後は教育的な利用も展開したいと説明。

柏原市森林循環フォーラム

第2部のグループワークでは班分けが行われ、「人の意見を否定しない」などのルール決めでやり取りが行われました。今回の参加者は世代も幅広く、森林への幅広い関わり方をする、これから行いたいという若い人たちも多く集まっていました。