真夏の陽ざしが照りつけていた、柏原市安堂にあるぶどう園。前日は38度、この日(8月6日)も35度を超える気温にもかかわらず、タオルで汗を拭きながら収穫に励む人たちの姿がありました。
ここは、太平寺のカタシモワインフード株式会社が契約するぶどう園。30人以上で収穫していたのは、日本たばこ産業株式会社八尾支店と富田林市の福祉事業所わくわく富田林の皆さんでした。収穫していたのはワイン用のデラウェアです。
ワイン用のデラウェアは生食用と比べると、形や色に手間をかける必要がありません。それでも傷みや劣化があっては使えないので、房の見極めや「さび」と呼ばれる傷んだ粒を取る作業に気を配る必要があります。
ぶどう園の園主と、カタシモワインフードのスタッフによるアドバイス、大阪府中部農と緑の総合事務所職員のサポートを受け、ひとつひとつのぶどうを丁寧に選別していました。
日本たばこ産業株式会社八尾支店の収穫は、7月13日に調印式を行なった大阪府のアグリパートナー制度「農業体験・ボランティア」分野での連携作業でした。
もう1社のアグリパートナー、新田ゼラチン株式会社は8月2日〜4日の3日間、尾形 浩一社長と24人の従業員が、収穫期を迎えたぶどうの見分け方や収穫作業方法を学び、柏原市内2カ所のぶどう農園で約490kgのぶどうを収穫しました。
● 大阪ぶどうの収穫ボランティアに参加(新田ゼラチン株式会社 WEBサイト)
https://www.nitta-gelatin.co.jp/ja/news/news/news-20210810.html
(写真提供:新田ゼラチン株式会社 [上2枚])
また、わくわく富田林の皆さんは、農福連携事業(ハートフルアグリ)農業インターンシップの取り組みで参加。(同事業を運営する一般社団法人エル・チャレンジ福祉事業振興がマッチング)
コロナ禍で、福祉事業所では外での就労支援があまり行えない状況が続いています。今回のプロジェクトでは大阪府内から6事業所が、農業インターンシップを実施しました。
ところで、このプロジェクトの背景には、農業生産者高齢化による担い手不足、それに伴う耕作放棄地(遊休農地)の課題があります。
大阪府の基幹的農業従事者(主に自営による農業従事者)の平均年齢は69才 (2015年 67.9歳)で、都市型人口や退職帰農者の要因はあるものの、全国平均の67.8歳を上回っています。
府の耕地面積は2020年(令和2年)には12,500ha。2016年(平成28年)の13,100haから毎年減少傾向にあります。
一方、遊休農地は2018年(平成30年)で166ha。近年の数値は横ばい傾向ではあるものの、耕地数の減少を考慮すると、大阪府でも常に農業が抱える課題となっています。
今回の収穫作業について大阪府中部農と緑の総合事務所に尋ねると、
「全国8位の収穫量を誇るぶどう産地である大阪においても、農家の高齢化と担い手不足のためぶどう園の耕作放棄が大きな問題となっています。
生食用と比べて半分以下の労力で栽培できるワイン用に転換することで、農地の保全とワイン用ぶどうの安定的な確保が同時にかなうことから、昨年度からワイン用デラウェアの契約栽培が始まりました。
しかし、収穫についてはあまり労力が減らないため労力の確保が課題となっています。今回の収穫作業支援に多様な担い手がかかわることで、収穫労力を大幅に減らす好事例として、今後の地域農業を支える仕組みを目指して支援を行っていきます」
と、回答をいただきました。
この日は13時から2時間弱で作業を終了。今年度は計9日間にわたっての収穫となりました。期間内の総収穫量は1,200kg。
以下、今回収穫に携わった各企業と、取材当日の福祉事業所からお寄せいただいたコメントを掲載いたします。(順不同・敬称略)
● 日本たばこ産業株式会社八尾支店
「日本たばこ産業株式会社八尾支店は八尾市、東大阪市、柏原市での社会貢献活動に力をいれて活動をしています。
今回取材いただいたぶどう園での収穫作業は、カタシモワインフード株式会社の『大阪が100年後もぶどうとワインの産地であるために』という想いに共感し、大阪府アグリパートナー企業の『農業体験・ボランティア』分野の取組として、地域の企業、行政とも連携し、地域のぶどう農家でのワイン用ぶどうの収穫作業に携わった活動です。
弊社は今後も地域を盛り上げるために地域の皆様と一緒に活動を継続していきます」
● 新田ゼラチン株式会社
「弊社はこれまで、地元小学生への出前授業や、地域清掃など自社で行える活動を主体に行ってきました。
今回の『農業体験・ボランティア活動』では、農繁期に高齢化やコロナ禍による人手不足で困っておられる栽培農家で農作業を行うことで、地元の方に役立つ支援をしたいという想いで参加させて頂きました。
真夏に収穫期を迎えるぶどうの収穫は、暑さに加え、足元が傾斜地なので作業が大変であることを実感しました。
弊社のボランティア活動は微力ではありますが、今後も継続していくことで、地域の特産品である大阪ぶどうの生産が維持され、100年後にもこの価値あるぶどう畑の風景が広がっていることを願っています。」
● わくわく富田林
「現在、施設外就労の機会も、農業に触れる機会もない中、このような機会があることを知り、参加を決めました。
実際に参加してみて、おいしいワインになる為のぶどうを探すのが難しかったのですが、利用者と職員で試行錯誤しながら見つけていくことができました。
わずかな時間でしたが、楽しく参加させていただきました。ありがとうございました。」
カタシモワインフード株式会社からは、
「大阪が100 年後もぶどうとワインの産地であるために <ぶどう畑の風景をみんなで未来につなげるプロジェクト>を企画しました。
たくさんのメンバーにお集まりいただくことができ、契約農家様の畑の収穫作業でご活躍いただきました。おかげさまで、今年は契約農家様のぶどうだけでワインを醸造できます。
年明けのリリースを目標に、長く愛されるワインになるように願いを込め、参加者からアイデアを募っているところです。どんなワインになるのかご期待ください!」
と、お礼の言葉と次へのメッセージがありました。
プロジェクトは、今季収穫したぶどうからワイン醸造される内容で、現在も進行中。ワインが完成した折には、かしわらイイネットであらためてお知らせします。
(参考資料)
・農林水産省WEBサイト「統計情報・作物統計」
・農林水産省WEBサイト「遊休農地対策について・農地法第30条に基づく利用状況調査等の結果等」