Report

町の風景へと広がる軒先の彩り 100軒以上が手ぬぐい飾る1週間  大阪・柏原市で(2022) 

桜のつぼみが膨らむ3月中旬から、店や家の軒先に彩られた手ぬぐいが舞う。大阪府の南東、奈良県との府県境にある人口6万7千人の柏原(かしわら)市で見られる光景だ。「かしわら手ぬぐいWEEK」。初回から5年の間にぐんと増えて自発的に100軒以上が参加する。今年は3月13~21日に開かれる。商店街で50年続く喫茶店も早速、軒先に手ぬぐいを吊るした。

キッチンカフェアイン高齢化やコロナ禍でシャッターを下ろす店舗が相次ぐなか、老舗喫茶店が手ぬぐいを飾る=柏原市オガタ通り商店街の「キッチンカフェ・アイン」

 

● 豊富な大和川の水源が育んだ染色業

奈良県から柏原市を経て堺市へ東西に抜ける大和川は、約300年前まで、柏原市から大阪市内の中心へ向けて北に流れていた。川の付け替えでできた水はけのよい砂地を活かして河内(かわち)地方(現在の柏原市・八尾市・東大阪市など)で河内木綿が栽培された。河内木綿は糸が太いのが特徴で旗や幟(のぼり)にも使われた。明治以降は安価な輸入品に押され衰退したが、今でも庄屋や舟運の跡地が残っている。

明治末期からは木綿由来の染色業が発展した。大和川の清流を求めた職人が工場を構え、手ぬぐいや浴衣の生産が盛んとなった。生地に色を注ぐ際、型紙と糊(のり)を用いて必要な部分を染める技法を注染(ちゅうせん)という。色重ねや淡いぼかしもできる注染は、豊富な大和川水系の伏流水で生地を洗い、陽の下で乾かして仕上げる。

地域経済の衰えと後継者不足が重なり、一時は市内に10軒ほどあった染工場は現在、4軒に激減した。さらにこの2年間は新型コロナウイルスによる影響で地域のお祭りや剣道大会の中止が相次いだ。ふだんの8~9割も生産が減少し、この春も週1回、工場が稼働するかどうかの深刻な状況に陥っている。

 

●伝統の手作業は複数の工程を掛け持ちも

注染 水本染工場
 ①明治末期から続く染色業。注染という技法で手ぬぐいに色付けする

 

柏原市上市(かみいち)にある水本染工場。ここは祖父の代に大阪市の農人橋から移り、柏原で三代にわたって100年近く注染を手がける。2019年に「浪華(なにわ)本染め」として国から認定された伝統工芸品をつくる工場のひとつだ。

注染の特徴は、はじめに白いさらしに型紙を載せ、へらで均一に色付けされない部分になる「防染糊(のり)」を塗る点。型紙には和紙を重ねた三重県の伊勢型紙が主に使われる。

 

注染 水本染工場
②木製のへらで均一に糊を塗る

 

彫り抜かれ糊を載せた型紙。この糊の部分が染めるときに色付けされないのがポイントだ。さらし一反を手ぬぐいの大きさに折り込み、1回の工程で数十枚の染色が可能となる。複数の色を染める場合は糊で「土手(どて)」をつくり、色をさし分ける。あえて土手をつくらず「ぼかし」という技法で独特の色合いや滲みを出せるのも、注染の特徴だ。

注染 水本染工場
③他に混ざらないように土手という囲いをつくり、染料を注ぐ

 

染めの作業が終わると余分な染料や糊を機械で洗い流し、1反ごとに干し場で吊り下げて乾かす。季節や気温によって時間の差はあるものの、半日以上乾かしたあとは手ぬぐいの大きさに1枚1枚丁寧に切り離す。手作業の仕上げ。「以前はそれぞれの持ち場があったが、ここ最近は職人が不足し、複数の作業を一人で掛け持ちしている」と、代表の水本雅祥(まさよし)さんは話す。

 

注染 水本染工場
④一度に複数の染色ができるのも特徴だ=①~④いずれも柏原市上市の水本染工場

 

● 現代グラフィックの図柄も取り入れる

柏原市古町(ふるまち)にある岡田染工場は捺染(なっせん)と呼ばれる技法を用いる。旗職人だった父を継ぎ、現在は二代目岡田元(はじめ)さんが店主だ。本来は手ぬぐいだけでなくお祭り用の法被(はっぴ)の生産が多くを占める。春には夏祭りに向けて、法被作りの繁忙期に入るが、新型コロナウイルスの影響で発注が来ない状況だ。

捺染は、細部にわたって彫り込んだ型紙の箇所から、布地に1枚1枚色を付けていく。色鮮やかで輪郭のはっきりした柄に仕上げる。基本はデザインを受注し、打ち合わせのもとでの生産だが、大阪芸術大学でリトグラフ(石版画)を学んだ岡田さんのオリジナル製品には独特のグラフィックも見られる。

 

岡田染工場
捺染(なっせん)で法被や手ぬぐいを染める=岡田染工場

 

● 伝統ある手ぬぐい文化を残す

柏原市の旧奈良街道に手ぬぐいを売る専門店「手ぬぐいChill(チル)」が2016年に登場した。店主は柏原市在住の三上翔さん。三上さんの本業は注染手ぬぐいに用いる防染糊の製造業だ。堺市など他の地域とも取引があるなかで、柏原には独自の販売専門店がないことに気づいた。さらに受注生産がほとんどで、地元ならではのオリジナル手ぬぐいも商品化されていなかった。

そこで自ら店舗を立ち上げ、「柏原ブランドの注染手ぬぐいを作ろう」と、クラウドファウンディングで資金を募った。企画は反響を呼び、集まった50万円の資金を元手に地元産の注染手ぬぐいが作られた。

手ぬぐいChill(チル)旧街道に手ぬぐい専門店を立ち上げた三上さん。近くの染工場に依頼した新作は、日本遺産のブランドに認定された=手ぬぐい専売店「手ぬぐいChill」の店先で

 

● 手ぬぐいWEEKのテーマは「手ぬぐいを飾って、愛でるだけ」

三上さんの姿に触発されたのが、柏原市在住の柏元(かしもと)真理子さん。1997年に結婚して柏原市で暮らし、現在は不動産賃貸業に関わっている。もともと地域の歴史や町並み好き。2012年から取り組んだ民家のリノベーションを通じて、古くから日常にある染色業に気づいた。

かしわら手ぬぐいWEEK「かしわら手ぬぐいWEEK」の呼びかけ人柏元真理子さん。後ろは地元の染工場でつくられた手ぬぐい=柏原市大正通りネスト

 

柏元さんは「手ぬぐいを店や家の軒先に飾ろう」と呼びかけた。「日常の風景は、地元ではあたりまえの風景。その『あたりまえ』を大切にする試みとして、地域で長く作られてきた手ぬぐいを見て楽しめる企画を考えた」。それが2018年に始まった「かしわら手ぬぐいWEEK」。手ぬぐいChillの三上さんは工場見学会の案内役を担った。毎年3月中旬の日・祝日前後を最終日に催している。

当初手を挙げた店舗や事業所などは50軒だったが、口コミやSNSで広がり、2021年には住宅も含めて129軒に増えた。今年は2月の受付期限までに「手ぬぐい飾るよ!」と表明した事業者などが100軒を超えた。それらは紙製のガイド「てぬマップ」で紹介され、手ぬぐい巡りを楽しむ人に配る。

手ぬぐいWEEKの大切なテーマは「手ぬぐいを飾って、愛でるだけ」。実行委員会という名前があるものの、すべては参加者に委ねられているのが特徴だ。参加費は不要で、勝手に参加しても大歓迎。ゲリラ参加があっても、町なかの発見として楽しまれる。「自分の知らないところで広がる『緩い連帯感』が楽しく感じてきた」と柏元さんは話す。

 

市内を巡る人を和ませるとともに、飾る側の創造力も刺激する。障がいがある子どもたちのデイサービス施設前に今年も、利用者が好きなように絵を描き、アクリル絵の具などで色をつけた手ぬぐいを一斉に飾った。まさに手ぬぐいWEEKのテーマがそのまま体現されている。

「筆を自由に使い、手形を布に押した子も。人の手を借りずに自分ひとりで上手に亀の絵を描いた子もいました」と児童指導員の谷垣由可さんは話す。

 

いんくるーじょん
療育・集団活動の一環で子どもたちが「さらし」に色をつけた=児童発達支援・放課後等デイサービスいんくるーじょん柏原事業所

 

最近では季節を問わず、市内で手ぬぐいを見かけるようになった。柏原市を拠点に近隣の大阪府東大阪・八尾両市でも野菜の移動販売を行う「へちまきゅうり」。それぞれ「へちま」と「きゅうり」と名乗る二人は、契約農家から仕入れた新鮮な野菜を直接消費者のもとへ届ける。さらに昨年は養鶏にも乗り出し、雛(ひな)をキャラクターとする手ぬぐいを名刺代わりに作った。

へちまきゅうり野菜の移動販売に加え養鶏もはじめた「へちまきゅうり」のオリジナル手ぬぐい。岡田染工場に依頼した=柏原市「をかしわらマルシェ」

 

● 広がる「緩い連帯感」に市民のみならず行政も動いた
 柏原市は1997年の7万9千人をピークに人口が減り続け、2018年には7万人を割り込んだ。さらにコロナ禍が追い打ちをかけ、人の動きも止まって2年の月日が流れた。

市民に広がる「緩い連帯感」に呼応して市は今年2月、公式Facebookで「かしわら手ぬぐいWEEK」への参加を正式に表明した。市役所内にある総合窓口には町の名産「ぶどう」「自転車」、2020年6月に日本遺産へ認定された「龍田古道・亀の瀬」をモチーフとした絵柄の手ぬぐいが飾られている。柏原市秘書広報課では広報誌2月号で染色の特集記事を組んだ。同課長補佐の神谷恭子さんは「大切に受け継がれてきた宝をもっと多くの方に知ってもらいたい」と、今年の手ぬぐいWEEKも楽しみにしている。

柏原市役所市民に広がる動きに自治体も参加。町の名産や日本遺産にちなんだ手ぬぐいを飾る=柏原市役所 

 

※当記事はYahoo!基金「NPO知らせる力プロジェクト」において、かしわらイイネット大村がまとめたもので、2022年3月12日から1年間、Yahoo!ニュースに掲載されたものです(現在は掲載が終了しています)。したがって当時の日程や記述が含まれています。ご了承ください。

 

⚪︎ 今年(2024年)の「かしわら手ぬぐいWEEK」については、下記記事をご覧ください。

かしわら手ぬぐいWEEK
今年は120を超える参加で手ぬぐいを飾る。かしわら手ぬぐいWEEK2024 2024年の「かしわら手ぬぐいWEEK」が3月10〜24日まで行われます。すでに柏原市内各所では早いうちから手ぬぐいを飾る店舗や...