Column

モノクロの日常に色を。10年続けた玉手山一揆のガーモートーンズとは

玉手山一揆

今年で10回目を迎えた玉手山一揆。頭のお堅い人なら玉手山で一揆なんて史実はない、という方もいるかもしれないが(あったかも)、ハードロックからオルタナティブ、アコースティック系の音楽が揃う手づくりのロックフェス、それが玉手山一揆なのだ。

ロックフェスと言っても、玉手山一揆はいい意味で「ゆるい」。失礼ながら、多くの観客が集まって密になっているわけでもない。それでいて、どこかあたたかさを感じるのが不思議。

その謎に迫るため、主催のガーモートーンズ、中嶋さん(ベース+ボーカル)と齊藤さん(ギター)に尋ねた。

 

● 玉手山一揆をはじめたきっかけ

今から10年前、「どこの野外フェスからも呼ばれないから」とガーモートーンズが自らロックフェスをやろうと思い立ったのが、そもそもの始まり。会場に選んだのは、玉手山公園の野外劇場だった。

中嶋さんとドラムの小﨑さんは、大阪教育大学映画研究部(現在はライパチフィルム)の出身。学生時代、自主制作映画のロケ地に利用していた玉手山公園を、今度はロックフェスの会場に設定した。

第1回玉手山一揆
▲第1回(2012年)の玉手山一揆フライヤー

 

しかし、野外劇場を利用するには物販や飲食販売が不可という基本規定がある。それゆえイベント利用度の低い場所でもあるが、そんな制約でも無料開催という意気込みに、全10組のミュージシャンやバンドが集まった。

「昔は遊園地だった柏原の公園で、無料のロックフェスがあるらしい」

無料ゆえチケットを捌く必要もないのも理由か、回を重ねるごとに大阪市内のライブハウスやミュージシャンのクチコミでその存在が広まり、徐々に出演メンバーやファンも増えてきた。徐々に。

「駅からむっちゃ遠い」「山登りや」

出演バンドのファンや友人がやってきてSNSでつぶやいている様子も愉快に感じる。それほどネガティブツイートも見受けられない。

 

ガーモートーンズ
▲第6回玉手山一揆(2017年)でのガーモートーンズ

 


● ガーモートーンズの音楽性は「ズーレケロック」

玉手山一揆の空気には、ガーモートーンズのバンド自体が持つトーンが存在する。そんな彼らは自らの音楽を「ズーレケロック」と標榜している。

ギター・ベース・ドラムの編成でガレージロックというジャンルがあるが、そうでもないらしい。日々の「焦りと空回りと音楽」を「ズーレケ」と言う単語で表す。

単にゆるいだけではなくて、人間誰もが持つであろうコンプレックスや日々の葛藤が、楽曲の根底に備わっている。時に滑稽で、時に反骨精神も。それが彼らのいう「ズーレケロック」なのだろうか。

 

ガーモートーンズ
▲第10回(2021年)のガーモートーンズ

 

例えば、ドアーズの「ハートに火をつけて」をもじったような「メガネに火をつけろ」。

字面だけ目にするとメガネ店が怒りそうな曲名だが、メガネをかけてるが故に誰もが抱えそうな悩みや弱さ、「あるある」の日常が延々と綴られる。ただしそれだけで終わらないフックが現れる。(フック:引っかかり、転じてラップにおけるサビの意)

「メガネをかけてるオレらは何を変えるべきか絶対分かってるぜ それは昔じゃなくてこれから先のこと」

卑屈にならずに行こう、ゴーサインが出る一瞬だ。

その一方で「ガーモートーンズが嫌い」という自虐的なタイトルのビートロックでは「どこにもたどりつけてないくせに」とブーメランを飛ばしてしまうのが、彼らの本領でもある。


▲柏原市のLIVE BAR POUND で収録されている

 

酒を飲んでふざけているようで、自分たちをクールに見つめる視点を忘れない。日々をあくせくして過ごす人びとの姿も当然知っている。言葉や音楽は不快かもしれないが、楽曲の根底に流れる感性は深い。

メンバー自身、サラリーマンだったり、お堅い仕事の人もいたりとそれぞれだ。昨年は新型コロナの影響も受け、集まることもままならなかった。それより前に、昨年(2020年)は大切な場所であるライブハウスの多くが存続の危機に陥った。音楽仲間が演奏すらできなかった。

 

● コロナ禍で迎えた玉手山一揆10周年。新たな仲間も

野外の玉手山一揆も新型コロナ対策を施すなど、より一層の気遣いが必要となった。10周年の今年は30バンドもの出演の2日開催(10月23日・24日)となり、配信の協力も得た。それでも無料開催を堅持して、手づくりのロックフェスは実施された。

 

▲仲間の協力を得て生配信も実施した

 

他のバンドのサウンドチェックもガーモートーンズが行う。そこへ「池ちゃん」と呼ばれる強力な助っ人が現れた。彼女もライブハウスに通うのがきっかけで、玉手山一揆の存在を知った人。今回は進行から案内まで細部にわたるサポートをした。

独特の世界観で音楽と踊りを披露していた岐阜在住のjaajaに尋ねると
「池ちゃんに呼ばれたんですわ、彼女がよくLIVEにきてくれるんでね」
と、柔らかな笑みを浮かべていた。

 

第10回玉手山一揆
▲第10回のフライヤー。第7回から担当する みそさざいさんによるグラフィック

 

2日目の大トリはもちろんガーモートーンズ。が、公園の決まりは17時に搬出となっている。そのため、出演直前まで後片づけの準備をするメンバーの姿が見えた。時間が押してしまい、本人たちがほとんど演奏できずに終わる年もあった。

「今年こそはガーモーさんのために時間を守らないと」と口にする出演者もいて、何とか演奏時間を確保。先の「ガーモートーンズが嫌い」など5曲が披露された。

 

ガーモートーンズ
▲4人全員で「バンド」を歌った

 

● ガーモートーンズや玉手山一揆のこれから

そんなガーモートーンズのエバーグリーン(?)と、筆者が勝手に考えている曲がアンコールで歌われた。その名もまさに「バンド」。バンドの結成から現在までと思われるストーリーがメンバー4人全員で代わる代わる歌われる渾身の一曲だ。PVもプロに制作してもらったという(映画研究部出身なのに)。

 


▲「バンド」では初めて本格的なPVを作成した

 

が、「これはフィクションですよ」と中嶋さんが口にして驚いた。「でも、半分は本当かもしれないですね」とも。

というのは、この歌詞を書いたのはワタナベサラという外部の人だからだ。かつて「ゆがみ」というバンドで香川や岡山など対バンツアーを敢行した音楽仲間だという。

週末の演奏と日常を楽しみ、もがきながらも歌い、演奏する姿が描かれている。

 

「モノクロの日常に色をつけてやろうぜ」

 

元ネタと思われる「エーガ」(映画の意)という曲に同様のフレーズがあり(ワタナベさん自身が歌う映像がYouTubeにある)、バンド初期から知る人だからこそ綴ることのできた曲だ。

そして、きっとこのフレーズは自分たちだけに向けて歌っているのではない。ここにいる人にも、ここにいない人にも向けて、4人は歌う。

 

ガーモートーンズ
▲ガーモートーンズの中嶋さん

 

30代に玉手山一揆をスタートさせ、今では42歳。結婚して所帯を持つ。今回は中嶋さんの家族が初めて見に来ていた。冷静にメンバーを見つめ、バンド引き締め役の齊藤さんが「メンバー全員ざわついた」と笑う。なぜ?

実は中嶋さんの奥さんも「ガーモートーンズが嫌い派」だったのだ。奥さんからかかってくる電話を必死で受け止める中嶋さんの姿を、皆が見ていて知っている。

 

広がりを見せた玉手山一揆を10年で区切りをつけるのか、奥さんにつけられるのか、まだまだ続くのか。。。中嶋さんは「バンド」の歌詞にアドリブを入れ、こう歌い切った。

「いくつになってもバンド続けたいけど、玉手山もなー」 

「オレたちはこれからさ 日々は続く」

 

ガーモートーンズ
▲ ようやくビールも飲める。左から中嶋さん(Ba.+Vo.)小﨑さん(Dr.)齊藤さん(G.)樫根さん(G.)

 

 

● ガーモートーンズ 公式サイト
https://garmotones.jimdosite.com

 

(おおむら)