Interview

鉄・金属の加工からレーザーまで。培った技術で新たなヤスオカへ(後編)

チタン製ミニチュアマンホール

株式会社ヤスオカ 安岡 直樹社長にインタビュー

柏原市国分東条町にある株式会社ヤスオカ安岡社長へのインタビュー。前回は同社の主力事業である圧延などについて尋ねました。後編は最近生産を繰り広げる「チタン製ミニチュアマンホール」などのレーザー加工、手がけるようになった経緯などを聴きました。

 

− 「をかしわらマルシェ」で御社の「チタン製ミニチュアマンホール」を知りました。その技術に欠かせないレーザー加工について教えてください。

レーザー事業の始まりはレーザー溶接でした。薄板の突合せ溶接という部分に特化してスチールベルトの事業を先代社長が立ち上げました。

その後に取り組んだレーザー彫刻では、さまざまなお客様からのテスト加工を経て、産学の事業として人工関節の開発に携わりました。地域新生コンソーシアム研究開発事業という産・官・学の研究開発施策では、人工股関節にレーザー彫刻を施すための装置開発を実施しました。

 

株式会社ヤスオカ 外観▲株式会社ヤスオカ外観

 

この地域新生コンソーシアム研究開発事業に関わるまでにも、長年にわたって多くのサンプルを作って動物実験しながら進めていたんですね。

初めてヒト用の疲労強度確認用サンプルを作る段階で、ワーク形状(人工関節)が複雑になったことと、技術の胆となる部分(熱影響によるクラック)が見えてきたことで、補助金を受けての装置開発に至りました。

もともとチタン印鑑の製造に必要なことからレーザー加工は事業のひとつとなっていました。それで今回の仕事を受けたのですが、極めて専門的分野からの依頼だったため初めての経験が多く、大変戸惑いました。

 

ビーム走査加工装置(人工股関節加工用に地域新生コンソーシアム補助金事業にて)▲ビーム走査加工装置(人工股関節加工用に地域新生コンソーシアム補助金事業にて)

 

− これまでとは畑の違う難しそうな話ですね。

整形外科の先生に「人工関節にレーザーで彫刻し、骨との固着性を上げる」という考えがあったんですね。人工関節ではチタンが好まれ、難削材と呼ばれる切削が難しい素材でした。今ではドリルなどで削る技術は向上していますが、当時はそんな微細な形状は彫れない。

一番のポイントは強度。関節ですから「繰り返し疲労強度」という強さを測ります。測定の結果、レーザーで彫刻すると熱影響による微細なクラック(欠け)が入るのがわかりました。

力が加わって元に戻そうとする「応力」が集中した時に欠壊、割けるみたいに折れてしまうんです。

低減させるには当時弊社にあったレーザーでは、ビーム形状的にもパルス幅的(※注)にも無理でした。そこで新しく高出力ダブルQスイッチ式の短パルスのレーザー(LD励起YAGレーザー)を導入しました。

※注:レーザーが1パルス照射される際の時間をパルス幅と言い、短い時間ほど熱影響は少ないが加工量も少ない)

 

人工関節におけるレーザー加工では独自の研究の日々が続いた▲人工関節におけるレーザー加工では独自の研究の日々が続いた

 

当初は先代とともに行動していたのですが、途中から先代の体調が悪くなって、打ち合わせは私ひとりに。大学の先生も揃うなかで発表し、質問に答えるのですが、まあ大変でした(笑)。レーザー加工技術をこれまで以上に勉強せざるを得なくなりました。

レーザー技術にもいろいろあるんですよ。先に言ったパルス幅、波長、周波数、その理論をかなり勉強し直しました。さらに、複雑な形状にも加工できるように機械を動かすには工夫が必要でした。

シーケンスと呼ばれる動き方もつくるように指示され、レーザーに必要な機械制御や電気制御の多くまで学んだことも、自分にとっては強みができた経験だったと、今では思っています。

 

− その経験がレーザー発色にどのようにつながったんでしょうか。

社長になる前からレーザー加工には取り組んでいたのですが、他にもさまざまなご依頼がありました。

「個人の自転車の部品に彫刻してほしい」「チタン印鑑を製作してほしい」とか。

そのなかのひとつに、手品を見せるマジックバーの運営者から、グラスを置くコースターの製造依頼が舞い込んだんですよ。10年前の話です。

「店にある紙製コースターと同じデザイン、同じ大きさで、ステンレスでも製造してほしい」というご依頼でした。

つまり「紙のコースターが金属になりました!」というマジック。手品のあともコースターとしてお店で使用する、という話でした。

 

株式会社ヤスオカ▲社員とともに念入りに確認を行う

 

当時はYVO4という発振器を用いたレーザーで、細かな加工はできるものの時間がかかる古い機械だったんですね。その加工において「金色っぽくしてほしい」と言う細かな依頼でもありました。

知識としてレーザー発色の原理があるのは把握していたので、担当者に相談し、何とか金色を出したんですよ。

金色の加工条件の幅は広いので、今から考えると出しやすい色でした。サンプルをお見せしてみると、依頼主からかなり気に入っていただきました。

そのご依頼があって、レーザー発色、構造色の可能性を考えるようになったんですね。加えてコースターでしたから、水になじみやすくするための親水処理も必要。それもレーザーで行いました。

レーザーで発色させるには多くのパラメーターがあって、どれだけのエネルギーが入るか、そのさじ加減を考えるのが重要なんですね。

 

− それは素材に関係なくですか?

関係があります。「反射率」、逆の表現で「吸収率」とも言いますが、構造色は微妙な光の反射で生まれる色なので。反射してロスとなる割合と、吸収されてエネルギーになる割合は素材によって異なります。

チタンやステンレスに対して、それぞれ適した吸収率、「波長」という考え方があります。ただし光の条件を自分たちで探ってつくるしかないんですね。そうして色を当てはめて、色見本もつくりました。

 

タマムシも構造色の原理で▲タマムシや貝殻も構造色と同じ原理で色が生まれている

 

 

− ミニチュアマンホールもチタン製ですね。

そうですね。そこからご縁が広がりました。ちょうどこの時期、同じレーザー加工も手掛ける株式会社カキモト様(奈良県三郷町)との出会いがありました。レーザー発色のサンプルを「弊社をイメージしたデザインで作ってほしい」と依頼したんです。

弊社のそばを流れる大和川はその昔「たつた川」と呼ばれ、物流の船が行き交っていました。そのイメージをグラフィックデザインに入れてくださいました。

当時はマンホールの蓋が今ほどブームになっていない頃で、奈良県王寺町ではマンホール蓋(ふた)の実物をふるさと納税に出品したことが大きな話題を呼びました。

すると王寺町からレーザー加工によるミニチュアマンホールの製造依頼が来たのです。これまでの経緯もあって完成し、2016年には王寺町のふるさと納税への出品に至りました。

 

− どんどん広がっていく姿が見えるようです。

いや、当時はまだ迷走していた感もあったのですが、さらに大きな転機がめぐってきました。

2016年春、関東へ出張した際「マンホールサミット」の存在を知ったんです。マンホール好きの人たちが集まるイベントでした。まだ「マンホールカード」が世に出始めた頃の話です。

そこでさっそく主催者に電話し、「弊社の商品サンプルを送るので見てほしい」と訴えて送ってみました。

 

チタン製ミニチュアマンホール(下関市)▲ヤスオカのレーザー加工を駆使したチタン製ミニチュアマンホール(山口県下関市)

 

 

「こういう高級路線を探していたところでした!」

ある日、返事の電話がかかってきました。その声はマンホールカードの仕掛人、山田秀人さんでした。

「マンホールのイメージを変えたい」とサミットも企画した人で、山田さんとの出会いは大きかったですね。

 

同じ年の秋、奈良県大和郡山市でもマンホールサミットが開催されることを知りまして、大和郡山市の金魚、富士山などのミニチュアマンホールを手がけることができました。現在は「チタン製ミニチュアマンホール」と名づけています。

そのような経緯があって、おかげさまで柏原市も含め17都道府県55種類の商品を手掛けています(2023年4月現在)。

 

さらに 「をかしわらマルシェ」など外へのブース出店もあって、ミニチュアマンホールについては多くのご縁があって展開することができました。

 

チタン製ミニチュアマンホールメダルも製造▲さらにチタン製ミニチュアマンホールメダルも製造

 

※2023年5月31日には「マンホールECショップ BASE店」もオープンしました。
https://yasuoka.base.shop/

 

− そのあと金属でできた積み木、「つみきん」も生まれました。
(「大阪商品計画」に参画 https://www.osaka-products.jp/

当初はシンプルに「金属の積み木」を定義としていましたが、現在は身につけるアクセサリー、装飾品にもできないか、などと検討しているところです。

そのために「つみきん」のキラキラした表面を気に入ってくれるデザイナーの方にお会いしたいですね。「をかしわらマルシェ」のお客様からは「指輪にしたい」と、SO-SEIというサイトへメッセージが送られてきました。

 

つみきん▲金属の積み木「つみきん」

 

 

− SO-SEIというサイトもつくられ、発信の広がりもできましたね。

SO-SEIはサイトにもあるように、「かたいイメージのある金属加工業をもっと楽しく、
やわらかくしていくことを目的に立ち上げたプロジェクト」です。マンホール部、レーザー兄弟、つみきんなどのカテゴリで一般消費者向けに販売までできないかと考えているところですね。

 

so-sei

▲SO-SEI サイト(https://sosei.info/

 

さらに、日本製鉄株式会社およびパートナ一会社の技術の融合で開発された、“TranTixxii” [トランティクシー]というチタン素材があって、この素材は時計のG-SHOCKなどにも使われているんですね。

地場産業の活性化を考える事業として打ち合わせにも臨んで製品を送付したのがきっかけで、“TranTixxii” [トランティクシー]のWebサイトで弊社を紹介していただいています。私自身は知らなかったので驚いています。

● TranTixxii” [トランティクシー]Webサイト
https://www.nipponsteel.com/product/trantixxii/collaboration/index.html

 

 

− 最後に、こうありたいと考える仕事の姿勢などあれば、聞かせてください。

圧延における対事業者との業務に話が戻りますが、弊社の顧客として今関わる事業者は、皆さん「ものづくり」に対するしっかりした考えがあり、自身のノウハウを持ちたいと考えていらっしゃいます。そのような顧客とは弊社も協力し、言われた形のものを確実につくり上げるようにしています。

 

株式会社ヤスオカ▲社員それぞれの技術でつくりあげる

 

時折、ほとんど丸投げで注文される事業所もいらっしゃるのですが、「ノウハウはお客さんがお持ちください」という話をしています。

例えば現在、工業機械で部品を動かす「リニアガイド」のレール部分の製造を受けています。そのパススケジュールの仕組みについては、弊社は把握していません。お客さまが苦労してそれを決めるんですね。

 

株式会社ヤスオカ 安岡社長▲お客様とともに技術向上をはかり、ものづくりがともにできる関係を

 

お客さま(事業所)自身がノウハウを持ち、弊社は装置をつくることに専念する。お互いがウインウインで技術向上できればいい。そのようにして、ものづくりがともにできる関係を長く築いていけたらと考えています。

 

 

取材・構成:かしわらイイネット
(取材日・2023年2月14日)

撮影:natully photo(ナチュリーフォト) 萩 沙織

(下関市チタン製ミニチュアマンホールはかしわらイイネット撮影)