(※2016年9月実施のリポートです:2023年2月18日再編集)
大和川が奈良盆地から大阪平野に向かう渓谷部にある亀の瀬。近世の舟運を含め、古くから大阪と奈良を結ぶ交通の要衝の地域でした。
生駒山系の南端にあたる地形もあって、古くから「地すべり」が起きることから、万葉集では「恐(かしこ)の坂」と呼ばれる難所でもありました。
最近の記録を見ても、明治36年、昭和6〜8年、そして昭和42年に発生。直前の昭和37年から国の直轄事業として建設省(現・国土交通省)が大規模かつ先進的な工事を実施し、その努力によって地盤が安定するようになりました。24時間体制での監視は継続されるものの、大規模な工事は完了しています。
国土交通省大和川河川事務所では、地すべりの要因、対策工事の詳細を広く理解してもらおうと、不定期に「大人の社会見学」を実施しています。
また、この工事用トンネルの掘削中に偶然発見された、明治時代の旧大阪鉄道亀瀬隧道(煉瓦製の鉄道トンネル)にも入ることができます。(※普段はすべて非公開)
今回、かしわらイイネットではその見学会を企画。平日にもかかわらず15人の参加があり、柏原市文化財課に講師の派遣要請を依頼し、実施の運びとなりました。
まずは、資料室において亀の瀬の歴史、工事内容をDVD上映。
地すべり発生当時に居住していた住民の人たちへのインタビュー、昭和40年代頃からの貴重な映像を織り交ぜながら(当時、外国からも視察があった)、概要の知識を得ます。
その後は展示室に場所を移し、大和川河川事務所調査課・細川さんから詳しい説明を。
はじめに大和川や奈良盆地・大阪平野全体、生駒山系から見た亀の瀬の位置を学びました。大和川が堰き止められてしまうと大阪・奈良双方にも影響を及ぼすことになります。
明治や昭和に起きた地すべりにおける貴重な資料や写真とともに、昭和6〜8年に起きた地すべりで、大和川の流れや当時の国鉄関西本線のルートも迂回することになり、国道25号線が隆起した事実も。(今もその隆起の名残が)
どうしてこのような地すべりが起きたのか、この地域は、粘土層などのすべりやすい地層の上に土塊があることなどを教わります。
亀の瀬では北にあった「ドロコロ」と呼ばれる火山から噴出した溶岩が、二層になって南へ下ってきました。二度の噴火の境に地下水を含んだ粘土層ができ、その箇所がすべり面となってしまいました。
さらに川の南側には大和川断層があり、溶岩層の裾を大和川が浸食(太古の時代は大和川が先に流れていました)。これらの原因が重なって地すべりが繰り返されてきました。
▲亀の瀬の地質を学ぶ(1枚目は「すべり面」がわかる地層)
分析の結果、抑制工(地形や土質、地下水などの状態を変化させる・排除する)、抑止工(日本最大の直径6.5m 世界最大級の最深96mの鋼管杭などを打ち込むことで抵抗力をつける)などの対策工事の概要を学びました。
資料室見学のあとは、実際に工事トンネルの中へ。ここからが体験見学となります。(繰り返しになりますが、現在、地すべりは対策工事の結果によって、集中監視システムの監視下にあるなかで、土塊量の変移はほとんどなくなり、安定しています。)
排水トンネルのなかには地中から集められた地下水が流れ、ひんやりとした内部。この日は最高気温が36度だった残暑厳しいなかの企画でしたが、エアコンでも入っているような涼しさです。(16度程度で、逆に冬季は密閉されていることもあって暖かいそうです)。
資料室で説明を受けた工事内容を体感。
途中で見上げると存在する集水井からは、多くの地下水が上から降ってくることに驚きの声も上がっていました。
最後に、排水トンネル工事の掘削途中で見つかった、明治時代の鉄道トンネル(亀瀬隧道)を見学。これは旧大阪鉄道(国鉄・JRの前身)が煉瓦などを用いて作ったトンネルです。
※工事用トンネルの内部にあり、通常は一般公開されていません。
当時は他にもトンネルがありましたが、大半が地すべりで埋まってしまいました。その影響で現在の大和路線の線路の位置も変わっているのです。(鉄橋も川に垂直ではなく斜めに架けられています)
ここでは柏原市文化財課石田さんも加わっていただき、当時の旧大阪鉄道の歴史とともに、その煉瓦構造の仕組み(煉瓦の長手と戸口の部分の配置による積み方によって、側壁部と上部にあるアーチの構造が違うこと)も教えていただきました。上部にある黒い部分は蒸気機関車の煤(すす)であること、発見の過程なども説明。
皆さん、現代的な構造物のなかから突如現れた煉瓦のトンネルに驚かれていました。現在、こちらのトンネルは柏原市の文化財に登録されています。
亀の瀬は、これまでも柏原市の地域資源として注目されてきた場所でした。そこに最近はNHK「ブラタモリ」で代表されるような地形や地層、石など地学的な視点が高まっています。
7月8日に開催された奈良県主催の「山の日・川の日」見学イベントには定員一杯(90名)の見学者が来訪。
「インフラツーリズム」とも呼ばれる社会見学に、国土交通省は全国的に力を入れています。大和川河川事務所では、今後も新しい見せ方を行っていきたいと、資料室もリニューアルしました。
今回のような少人数での見学は平日のみ事前申込と日程調整によって、随時受付がされています。ご関心のある方は一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
(※2016年9月1日に実施した見学リポートを再編集しました。最終更新 2023.02.18)
2022.06.27追記)
その後、2020年(令和2年)6月に「龍田古道・亀の瀬」が日本遺産に認定され、亀の瀬トンネルはその構成文化財のひとつとなっています。2022年現在、日曜日に一部施設をボランティアガイドの方が案内しています。
2023.02.18追記)
2023年1月よりプロジェクションマッピング「光の旅路」が始まりました。