Interview

「カタシモ」だからできるワインを より広く、より深く伝えたい。(前編)

カタシモワイナリー 高井麻記子さんカタシモワイナリー 高井麻記子さん

戦前、ワイン醸造許可を持つ農家が70軒以上もあった柏原市。この地で今も唯一ワインづくりをつづけているのが、西日本最古のワイナリーである1914年創業の「カタシモワイナリー」です。高井麻記子さんは5代目として歴史と伝統を大切にしながらも、“開かれたワイナリー”への取り組みも進めています。

そんな高井さんにカタシモワイナリーのワインの魅力や新しいチャレンジ、そして仕事論などを語ってもらいました。 (取材撮影:2020年02月20日)

 

たこ焼きにあうワインやグラッパなど、ユニークなワインも。

ー まずはカタシモワイナリーさんのワインづくりについて教えてください。

代々受け継いできた伝統を活かし、“日本人の味覚に合う”ワインをつくっています。味はもちろんですが、減農薬栽培や無添加、衛生管理など、安心してお飲みいただけるワインづくりを大切にしています。あとはラインナップが豊富なのも特徴ですね。スタンダードなワインからスパークリング、グラッパ、ぶどうジュースまで、いろんな味をお楽しみいただけます。

 


西日本最古のワイナリーとして、当時の面影を今に残す場所。100年以上の前から変わらない、カタシモワイナリーのワインづくりの原点が垣間見える。

 

ー カタシモワイナリーさんならではというワインは?

一つは「たこシャン」ですね。その名の通り大阪名物のたこ焼きにあう、カジュアルなスパークリングワインです。自社農園のぶどうを100%使用した「合名山」シリーズは、私たちの歴史も味わえると思います。あとは、日本初のグラッパ「葡萄華(ブドウカ)」もオススメです。上品な香りと柔らかな味わいが特徴で、モンドセレクション銅賞をいただきました。

 


カタシモワイナリーのワインは、その質の高さが評価され2019年のG20大阪サミットのレセプションで振る舞われた。その際の7種のワインには、「たこシャン」や「合名山」シリーズ、グラッパも含まれている。

 

 

 

ー 高井さんご自身のお気に入りは?

「華やか薫るネオマスカット&リースリング」「柔らか薫る巨峰」ですね。国産のぶどうを使用した、“香り”が魅力の甘口ワインです。香りが一番強く出る時期に発酵を止めて瓶詰めしました。フタを開ければ、それぞれのぶどうの香りが心地よく漂います。アルコール度数7度なので女性の方にオススメなのですが、意外と男性の方にもご購入いただいています。

 

ー ネーミングもパッケージもワインの特徴にあっていますね。

ありがとうございます。ネーミングは自分で考えましたし、パッケージにもこだわりました。そうしたデザインの要素も含めてワインづくりだと思っています。ワインの特徴をお客さまにひと目でつかんでもらえるデザインが大切だし、今後も意識していきたいですね。

 

柏原という町とワインをより伝えるために、“開かれたワイナリー”へ。


ー ほかにオススメの商品はありますか?

「おもろいやん! カタシモワイン祭り」ですね。私たちのぶどう畑や付近の古民家などを巡りながら、ワインや食、そして柏原という町全体を体験してもらう年1回のイベントです。

 

ー あのイベントが商品とは驚きました。

そうですね(笑)。私たちワインの味はもちろん、どんな場所でどんな人がワインをつくっているかなど、カタシモワイナリーを切り口にこの地域の歴史と文化を丸ごと体験できるという商品なんです。第一回目は創立100周年の記念イベントとして開催しました。その当時、「記念イベントはどうしよう?」とスタッフで意見を出し合ったところ、「ぶどう畑が丸ごとパーティー会場」のようなアイデアが生まれたんです。

 


「おもろいやん! カタシモワイン祭り」は、毎年5,000人程の来場者が訪れる柏原の名物イベント。ぶどう畑の下で、ワインと料理を楽しむ時間は格別。

 

 

ー 地域の皆さんも、運営スタッフとして数多く参加されていますね。

このイベントのテーマは、「柏原のぶどう農業と文化を守り、将来へつなげていく」です。だからこそ、地域の皆さんが参加するだけではなく、運営スタッフとしてもご協力いただいていることには本当に感謝しています。このつながりを大切にしていきたいですね。

 

ー 2019年5月に「カタシモワイナリーズ ミュージアム&カフェバー」をオープンした理由は?

私たちがどんなワインをつくり、どんな歴史やこだわりがあるのか。そういったことを実際に知ってもらう場をつくることが、“開かれたワイナリー”につながると思っています。「ミュージアム&カフェバー」は、その一つのカタチです。まだまだ小さな一歩ですが、一度お越しいただけたら嬉しいですね。

(※現在、カタシモワイナリーズ ミュージアムカフェ&バーは休業中です)

 

 


大正時代の貯蔵庫建物をリニューアルした、レトロな雰囲気が漂う「カタシモワイナリーズ ミュージアム&カフェバー」。心地よい空間の中で、ワインやぶどうジュースを堪能できる。

 

 

 

ー 展示されているものを教えてください。

明治から大正にかけて、ぶどう栽培やワイン醸造に使われた古い機具や写真を主に展示しています。この建物の隣には築130年の古民家もあって、昔の雰囲気も楽しんでいただけると思います。

 

 


柏原のぶどう栽培やワインの歴史を、さまざまな醸造道具を通して体感できる。1階の趣深い貯蔵庫は登録有形文化財に指定。

 

 

 

ブレイクスルーを楽しむ。一人ひとりの個性を活かす。


ー さまざまな新しい挑戦をされている高井さんですが、仕事のやりがいを教えてください。

日々、いろんな課題が目の前に立ち塞がりますが、それをやっつけたときですね。たとえば、発酵の時期に突然気温が上がったりすると、「1500本がダメになってしまう!どうする?」と考え込むのですが、新しいアイデアで発酵を調整して納得できるワインができた瞬間、「突破できた!」というブレイクスルーの感覚を味わえますね。それがやりがいの一つですね。

 

ー その感覚は私もわかる気がします。

あとは閉塞感が漂う中で、「ひらめき」が降りてきたときですね。「このアイデアは面白いかも!」と頭に浮かんだら、偶然にもそれを実現できる人と出会うこともあります。すると、さらに次への意欲が生まれますね。

 

 


持ち前の明るさで、苦労したエピソードも笑顔で答えてくれる高井さん。

 

 

ー 多くの人と一緒に取り組む仕事が多いと思いますが、その中で大切にされていることは?

やっぱりコミュニケーションですね。畑や工場の各チームの状況が把握できるよう、いつも会話をしています。だから、一日中しゃべりっぱなしですよ(笑)。

 

 

ー チームづくりで心がけていることはありますか?

一人ひとりの個性を活かすとともに、それぞれが補いあえる方法をいつも考えています。今のメンバーはバラエティーにあふれていて、癖が強いんですよね(笑)。最近は、ようやく個性を活かせる取り組みができるようになってきました。「カタシモワイン祭り」では、話が上手い営業スタッフが司会として活躍したり、醸造スタッフが体験イベントを仕切るようになってきました。でも、まだまだ足りないと感じています。一人ひとりがそれぞれの個性や特技を発揮できる場をもっと設けることができれば、カタシモワイナリーもさらに成長していけると強く思います。

 

後編へつづく