大阪はぶどうの名産地。その歴史を再確認しブランディングまでを検討する目的で、「大阪ぶどうの魅力とは?」と題するシンポジウムが、8月23日に開かれました。主催は地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所(おおさか環農水研)。
会場の大阪産業創造館イベントホールは、関係者や一般の聴講者で定員200人がほぼ満席に。関心の高さがうかがえました。
はじめに、おおさか環農水研から「大阪ぶどう研究史」と題する報告。
大阪ぶどうは2023年(令和5年)には3,520t(トン)と全国で第7位の収穫量、デラウェアの栽培面積は全国3位を誇ります。
大阪ぶどう生産が発展した自然条件の理由には、1)年平均気温15℃、2)年間降水量1,350mm、3)南西や西の傾斜地の日当たりや風通し、4)花崗岩風化土や安山岩土壌による水はけのよさ、5)積雪の少なさが挙げられました。
▲会場ではおおさか環農水研が研究するポスターセッションも多数
技術的要因としては、傾斜地における「波状型」のビニールハウスは大阪特有で、安定した温度調整と出荷が可能に。ジベレリン処理によって、大阪のデラウェアは昭和39年にはほぼ種なしとなったそうです。
その後は、大阪オリジナルぶどう「虹の雫」には長年の苦労が実った話が、歴代の研究員からリレー形式で語られました。一度は諦めたものの、たどり着いた「虹の雫」。1973年に巨峰とブロンクスシードレスを交配したひとつでした。
▲大阪ぶどうの主力品種デラウェアとオリジナル品種虹の雫
「色が揃わない」理由で評価が分かれ、いったん見送りとなるも、甘い味覚と芳醇な香りからふたたびスポットライトが当たります。原木や複製樹など多くの条件がある品種登録を乗り越え、令和5年12月には商標登録までこぎつけたことが説明されました。
現在も、栽培手法による色づきや味わい、香りの違いについて研究を重ねていることも最新の取り組みとして紹介されました。
★ 虹の雫の詳細は下記もお読みください。
後半は、「大阪ぶどうの魅力をひきだすブランディング」としてパネルディスカッション。
大阪公立大学小林哲教授がコーディネーターとして、生産者、直売、小売、行政、研究の立場から、大阪ぶどうの魅力や現状などが語られました。
パネリストには、大阪府環境農林水産部長 原田行司氏、大阪府果樹振興会会長 天野映氏、大阪南農業協同組合 営農部営農指導課長 塚本哲也氏、阪神梅田本店フード営農統括部生鮮営業部ディビジョンマネージャー 竹林豊氏、おおさか環農水研 食と農の研究部葡萄グループ 主任研究員 三輪由佳氏が登壇。
まず、大阪ぶどうの現在の状況について、
「いいぶどうを生産すれば高く販売できることが、生産者や消費者にも理解が深まってきている。都市部から近い購買力の強さも大阪ぶどうの特徴」
「シャインマスカットの出現が大阪でもぶどう生産に大きな変化をもたらし、1房3,000円〜5,000円での販売が可能となった」
「デラウェアの生産量は年々減少し、毎年5〜10%減の状態である。一方で市場やスーパーでの引き合いは残っているため、現在は価格が上がっても販売できている」
などの声がありました。
▲大阪のぶどうとしては甲州の名も。人気のシャインマスカットとともに
虹の雫のブランディングについては、小林教授が「色が揃わないのはブランディングとしてはどうか」と質問を投げかけたところ
「色が揃わないマイナス面をプラスに転じる」「商品陳列では逆に目立つ」「大阪らしい、違いを楽しむ」
などの意見が出されました。
小林教授からは「カタカナの名称が多いなか、愛称を『虹の雫』とし、色の違いを反映した日本語の力も大きい」という感想も。
虹の雫の育成には苗木から5〜6年かかるため、今後も研究も重ねつつ、「高級感を出し、ブランドコントロールしていきたい」と原田氏からまとめがありました。
パネルディスカッション終了後は、会場来場者全員が「虹の雫」やその他のぶどうの試食へ。
特に「虹の雫」については、栽培方法の異なる3種類が用意されました。違いは明かされないままのアンケート(写真上の1枚目)も。
実際は通常栽培、液体肥料の使用、反射シートの設置で育成した「虹の雫」で、味覚と香りの違いについて声を集める目的も兼ねたものでした。これらの感想を集約し、今後のさらなる研究に役立てるそうです。
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☆会場では、大阪のワイナリーのワイン展示、研究されているワイン用品種「大阪RN-1」の展示もありました。