医療法人あかし内科クリニック
明石祐作 医師にインタビュー(後編)
あかし内科クリニック医師 明石祐作さんへのインタビュー後編。前編では明石医師が感染症対策を学んだ経緯、筑波で新型コロナ対応にも当たっていた話をうかがいました。(→ 前編はこちらから)
後編では、医師になったきっかけや今後の地域診療についてを聴きました。
● 柏原に来られたのはどういうきっかけだったのでしょうか。
母が引退し、経営的な建て直しが必要だったと考え、そろそろかなと。新型コロナの流行もあり、戻るのが遅れると大変になるかもしれないと感じました。
● 柏原での診療状況を教えてください。
最初は週3回、今は週4回(2023年12月現在)診療しています。子どもが、会わなくても寂しがるような年齢を過ぎれば、柏原での仕事にもう少し専念できるかと考えています。
▲診察医師ごとに受診の順番がわかる大型ディスプレイ
● 自分の子どもに同じく医者になってほしいと思うことはありますか。
それはないですね。興味がないとなかなか難しいです。私は「面白い」と思って医療の道に進みましたが、興味がないと継続するには負担の大きい仕事だと思います。大学に入っても途中でやめる人もいますから。
● 医学部に入るのは大変な努力の結果と感じますが。
医学部は入学試験である程度の点数を取れば入れます。が、ミスマッチとなる人も残念ながらいらっしゃいます。入学後に自身の期待と違ったと感じる人もいて、情熱をもって「地域医療にとりくみます」と言っていたのが、卒業時には全然違う場合もあるんです。
▲家庭では3人の子どもを持つ父でもある
● 医師の仕事が「面白い」と言われました。そう感じる点はどこにあるのでしょう。
一番面白いのは、普段の診療において「勉強したことがそのまま役立つ」ことです。学習した内容を実際の現場で活用するには、通常はかなりの時間と工夫が必要です。
医療は勉強したことがそのまま使え、役に立つことが多いですね。学びを患者に還元でき、喜んでいただけることも多いので、とても良い仕事だと感じています。
● 祐作さんが医師を志したのはいつごろでしょうか。
高校2年か3年頃ですね。もともと魅力に感じていた仕事がそうでもないかな、と思うことがありまして。
▲清潔感ある明るい雰囲気の待合室
● それまで魅力に感じていたのは?
ゲーム作成やプログラミングに関心がありました。プログラマーやゲームデザイナーは今でこそ花形ですが、当時は想像していた以上に労力の必要な仕事だと感じました。
● 自らクリニックのサイトを立ち上げていますね。
パソコン操作自体は昔からやっていましたし、大学院での研究でプログラミングを行っていましたので、慣れていました。
医師はパソコンをよく使いますし、興味があるかどうかだと思います。私は、面白いなと思う最新のサービスを他にも調べています。飛びついて時折失敗することもありますが(笑)
▲あかし内科クリニックのWebサイトは明石医師によって作成された
● 今、面白いサービスはありますか。
AIによるカルテ作成に注目し、チェックしています。口頭で喋った内容を要約してカルテを作成するアプリです。8割くらいは正確で、もう少し精度が高まれば使えるようになるかもしれません。
● 今後の診療に活かしていこうと?
デジタルツールを活用していきたいのですが、当院の患者は高齢者が多いので、利用を押しつけないようにしています。
レストランなどでは、デジタルツールを利用しないと予約や注文などが一切できなくなりつつあります。しかし、当院ではデジタルデバイド(情報格差)を生まないよう、現時点では全面的な導入を行わないようしています。
▲会計では多種の決済サービスに対応している
● 今の30〜40代が高齢者となるとツールも変わってきそうです。
30〜40代の方々はデジタルツールの使用に慣れているため、20年後には「予約はオンラインのみ」といった施策の導入が可能かもしれません。ただ、現在デジタルを使いこなしている世代が、高齢になっても今と同じように使い続けられるかは不透明な部分もあります。
実際、これまでコンピュータを問題なく使えていた人でも、加齢による認知機能の低下が原因で、操作の難しくなるケースがあるのです。どんな世代でも認知症になった場合は、周りのサポートが必要になるのではないでしょうか。
デジタル化の加速する現代社会ですが、人と人とのつながりや助け合いの大切さを忘れてはいけません。
▲時短を考える患者向けに受付から会計、調剤までをスマートフォンでも対応(左)。難聴の人とスムーズに会話するためのスピーカー(右)
● これからの高齢者向けの課題ですね。
高齢になると字を書いたり、読んだりするのが段々と難しくなります。受付に日付を掲示していますが、例えば予約の内容が書かれた紙に「何月何日に来てください」と書いても、読むことができない。そうなってしまうと、スマートフォンを使えた人でも使えなくなる恐れはあります。
若い人にはデジタルを勧め、それが難しい高齢者には人的なサポートを、と対応を切り分ける必要があります。
▲待合室にあるデジタルサイネージ。健康増進や体調管理を呼びかける
● クリニック以外で地域での取り組みはされていますか。
先日、「あすなろサロン」という旭ヶ丘のサロンにおいて地域住民対象の講演をしました。高齢者は転びやすいので、予防の体操も含めた転倒予防を話題としました。
地域の取り組みには、かつて総合診療科や診療所で働いていた経験の影響があります。地域医療を専門とするのが総合診療科です。そこでは地域に根づいた活動に携わる機会が多くありました。講演会もその一つですし、今後もさまざまな取り組みをできたらいいなと思っています。
▲旭ヶ丘の「あすなろサロン」での講演風景(かしわらイイネットで取材)
● 地域への意識がこれまでもあったのですね。
筑波大の総合診療グループは地域医療を行う上で、地域住民の方や行政と一緒に健康プログラムの作成やまちづくりなど、さまざまな事業を行っています。現在、私ができることとしては講演会など、クリニックの近辺に密着した活動ですね。
● 他に実施したいことはありますか。
認知症カフェに関心があります。まだ少し先になると思いますが、コストもかかる話なので、地域での取り組みを深めてから実施してみたいです。クリニックから少し離れた地域へ出て、講演活動も行いたいですね。
▲やわらかい対応で患者の声を聴く
● これからの夢、実施したい事業は
地域のニーズに応じて診療内容を変えていく必要があると考えています。私のやりたいこと、面白いと考えることを地域に押しつけるのではなく、ニーズがどこにあるのかを見極めつつ判断していきたいですね。
● 他にもありましたらお聞かせください。
新たに、私が専門にしていた海外渡航者向けの予防注射や診療(トラベルクリニック)を始めました。
この近辺には海外に派遣する大企業や大学がある割りに、海外へ行く人への予防接種を行う医療機関が全然ないことに気づいたことが、きっかけでした。海外渡航者向けのワクチンは、当時は大阪市の中心部でないと接種できませんでしたので。
▲柏原含め近隣地域では珍しく海外渡航者用のトラベルクリニックを行う
学生が多いため、大阪市などにある医療機関より価格は安い設定にしています。この予防注射を始めてから、羽曳野市からもお越しになられたことがありました。
▲徹底した温度管理でワクチンを保管している
ホームページをご覧になられているのか、30〜40代の人が多く来院されています。世代的にSNSをチェックしている可能性もありますね。クリニックの大きな診療内容のひとつとして、今後も届けられるように発信できればと考えています。
(終)
(参考)
あかし内科クリニック Webサイト
https://akashi.clinic
取材・構成:かしわらイイネット
撮影:natully photo(ナチュリーフォト) 萩 沙織